ずっと前、近くに猫の親子が住んでいた。
ずっと前、近くに猫の親子が住んでいた。
真っ黒で、全く誰にも懐かない昔ながらの野良の母親と、その血を色濃く引きついた4匹の兄弟だった。
子供たちはまだモノを知らないながらもいっしょうけんめい母親を真似して、おそらくはよく意味もわからないまま人間から距離を取ったり取らないではぐれかけたりコロコロと走り回っていた。
母親の猫はひとりでこどもたちの面倒を見て、教育を行い、周囲の安全を確保するのに余念がなかった。人間が近づいていい距離はきちんと決まっていて、誰かが少しでもその線を越えそうになると言葉が通じないことにうんざりしながらこどもたちを安全な場所へ誘導した。
かわいいとか飼いたいなんて失礼なことを思わせないくらいに彼女は美しかった。少なくとも人間に飼ってほしいなんてこと考えたこともなかったはずだと思う。
まあ望んでペットになる動物なんてのもありえないけれど。
ある日を境に、親子は姿を消してしまった。ゴミ置き場を漁って生活していたので通報されてしまったのだろう。
一年後、私の目の前を一匹の真っ黒な固まりが駆け抜けていったときはあいつだ、と思わず快哉を叫んでしまった。それもそれっきりの話だ。