無力
大好きだった祖父が死んでしまった。
当たり前だけれど、人が一人死ぬというのは結構大変な事だと、祖母が死んだ時と同じ感想を持った。
関係ないけど、家族に対して「亡くなる」という言葉がうまく使えない。いい年して情けない。
そして父親も死にかけている。
余命一箇月って、ありがちなドラマみたいな言葉が出てきてびっくりした。祖父が最期に入院した時から、延命治療の是非の決定(人工呼吸器をつけるつけないの即断を求められる)やらセカンドオピニオンやら高額療養限度額証明やら、知ってはいたけれどあまり縁のなかった言葉のオンパレードで何の祭りかと思った。
「入院の保証金はクレジットカードで払える」とかは、せせこましいけど嬉しい新知識。
父親はアル中で肝臓をダメにした。
「もう肝硬変通り越して肝不全ですね。もう手のほどこしようがありません」というのが入院時の診断だった。
不全ってあなた…心臓だったらそれ死んでますから!残念!!って突っ込みたかったのは秘密です。ちょっと古いね。
どうしてここまでひどくなるまで放っておいたのかと責められても仕方がない位、私は父を放っておいた。
ファザコンであるという自覚があるくらい、父と私は割合仲が良かった。そんなによく話す訳ではないけど、趣味や考え方がわりかし似ていると思っていた。
それが、話が全く通じなくなった。
医者の「治療しないと死にますよ」警告を何年も無視して、どんどん悪化する実際の身体的症状を毎日愚痴るにも関わらず家族の「頼むから病院にいってくれ」には頑として応じない。
部屋に引きこもっていくら声をかけても出てこない、出かけるとウイスキーを買って帰ってくる。
没収してもいたちごっこになるだけで意味ないのでやめた。
酔っ払い特有の意味不明の説教が増えたり。
何も食べないくせに自分の分の夕飯が用意されていないとかくだらないことで拗ねだしてみたり。
毎晩ものすごい悲鳴が続いていたけれど、聞こえないふりをしていた。
見た目もものすごくって、歩くのもままならず、、、最終的には人間にも見えないというか、自宅バイオハザード状態。怖すぎ。
本当に怖かった。
どうしていいか全然わからなかった。
アル中は妻子に暴力をふるう人も多いようだけど、そういうことはないタイプだったので、ある意味恵まれていたと思うけれど。
父親が入院したことを受けて、遠くに住んでいた母親が飛んで帰ってきた。
アル中の入院は付き添いが必須らしく、私は週末手伝う位で、殆ど母親が対応している。
規則正しい生活と、栄養の摂取(点滴)と、清潔な室内のおかげで、「あなたゾンビですか」から「重病人ですね大丈夫ですか」へと見た目の変遷があった。
アルコールも抜けたので、まともな会話も少しはできる。
ただ、無気力。
病室に入ると、私は、なぜかいつも急激な眠気に襲われる。
母も同じことを言っていたので、何かが蔓延しているのだと思う。